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2024.11.06
広告業界の若きイノベーターが語る、広告賞へ挑戦する意義とは?
話題の起点になることが、交通広告の醍醐味のひとつ。
年齢、国籍、職業問わず、誰でも応募可能なアワードとして2017年にスタートした「Metro Ad Creative Award」は、東京メトロの広告媒体を題材とした広告賞だ。2024年度はグラフィック部門、プランニング部門、デジタルサイネージ部門の3部門で9月25日から応募を開始した。
今回は「Metro Ad Creative Award 2017」のプランニング部門のメトロアド賞受賞者であり、2023年度・2024年度と当アワードの同部門で審査員を務める関谷“アネーロ”拓巳氏にインタビュー。TBWA\HAKUHODOのアクティベーションプランナー(当時)として活躍しながら当アワードに応募した関谷氏に、応募・受賞当時のエピソードや広告賞へチャレンジすることへの意義、また審査員として期待していることなどを伺った。
―まずはアネーロさんのご経歴を簡単にお聞かせいただけますか?
東北大学と大学院で建築を学んで、2014年に博報堂に入社しました。その後、2017年にTBWA\HAKUHODOに移動して、現在は地球中心デザイン研究所、英語でEarth Centric Designを略してECDという新しい会社での仕事も兼務しています。TBWA\HAKUHODOではアクティベーションディレクターという肩書きですが、例えばテレビCMの仕事にクリエイティブディレクターとして関わることもありますし、何かを話題化させてほしいという依頼もあります。商品開発から入れてもらうこともあれば、ホテルや商業施設のコンセプトを考えることなど、幅広くやらせてもらっています。
―入社当時から関谷“アネーロ”拓巳さんというペンネームで活動してらっしゃいますよね?
そうです(笑)。キートン山田さんやトータス松本さんなど、カタカナ+苗字の名前に憧れがありまして (笑)。学生時代にニックネームをつける機会があり、その数日前に決めた下宿するマンションの名前がアネーロ北山で、よし、アネーロ関谷にしようと。それからもう16年も経ってしまいました。プチ情報なのですが、Metro Ad Creative Awardにもアネーロ関谷で応募して、別のコンペもアネーロ関谷で応募して受賞したんですけど、後者では翌年から「本名以外での応募はご遠慮ください」という一文が追加されていて、あ、逃げ切ったなという気持ちになりました(笑)。
―なるほど(笑)。Metro Ad Creative Awardに応募したきっかけは何だったのでしょうか?
僕が応募したのは第一回だったんですよね。新しいアワードが始まると思って、第一回ということはまだそんなに応募者が多くないんじゃないか、受賞しやすいんじゃないかなんてことも思いつつ(笑)。当時はプランニング部門のように、スライド10枚で応募するというアワードはほとんどなかったので貴重でしたし、挑戦したいなと思いました。
当時の協賛企業の中から関谷氏が応募したのは、全日本空輸株式会社の課題「ANAでハワイへ行きたくなる企画」。小渕 朗人(博報堂)氏、タルボット才門(博報堂)氏との共同制作で、現地の人を操作して、ハワイを探検できるOOH「ANA QUEST」を提案した。
「ANA QUEST」のOOHにはハワイにいるANAスタッフの後ろ姿が生中継されており、画面の前に置かれたコントローラーを操作すると、現地スタッフがその通りに動き、ハワイを探検することができるというアイディアだった。
―制作時のエピソードを教えていただけますか?
僕と同期のアートディレクターとPRプランナーの後輩と3人のチームで、アイディアを出し合いながら制作しました。企画書作りはだいたい僕が担当したと思いますが、アイディア自体は後輩が考えたもので、こうしたらもっとよくなるね、という話を付け足しながら、3人で磨いていきましたね。受賞したときは「後輩のアイディアに乗っかって“ごっつあんゴール” でした」とつぶやいた気がします。
―受賞式はどんな印象でしたか?
とても豪華な会場で、栄えある賞を受賞したんだなと、すごい嬉しかった覚えがあります。賞状をもらえないアワードもあるので、もらえることも嬉しいと思っていました。いただいた賞状は玄関に飾っています。落ち込んで帰った日も、その賞状を見れば「大丈夫、大丈夫」と思えるんですよね。
―関谷さんにとって交通広告、OOHの面白みや醍醐味はどんなところですか?
当時提案したのはOOHなんですが、体験型の広告になっていて。交通広告でありながら体験型を含めた企画を作れる面白みもあるし、交通広告を出していることをきっかけにニュースになったり、SNSで話題になったり、話題の起点になるという意味でとてもいい媒体だなと思っていて、実際の仕事でもよく提案していますね。あと僕は田舎出身で、周りの環境に交通広告がなかったんですよね。だから交通広告があるだけでワクワクするというか。大学が仙台でバイク通学していたんですが、道路沿いに屋外看板が貼ってあって感動したことを覚えています。
広告賞に参加する意義はトレーニング、そして箔をつけるということ。
関谷さんはこれまでに世界最大級の広告賞・カンヌライオンズの30歳以下のコンペ・通称ヤングカンヌの金賞をはじめ、2021年 CREATOR OF THE YEAR賞メダリストなどさまざまな広告賞を受賞した経歴がある。
―当アワード含め、広告賞へトライした過去の経験をどう捉えていますか?
若手時代に取り組んだ企画のコンペはいろいろな意味で、ためになっています。受賞できたらやはり自分に箔がつくし、先輩たちに褒めてもらえるだけで嬉しいんですよね。受賞をきっかけに仕事に誘ってもらえたこともありました。「受賞歴のある関谷くんの意見も聞いてみよう」とクライアントの方に話を振っていただけたこともあって、受賞したら仕事につながっていくという実感がありました。ただ、受賞しなくても意味はすごくあります。若手の時は自分で企画書を書かないことが多くて、先輩の企画書を見て覚えたり、手伝うくらいなんですけど、自分が一番上になって企画書を作ったからこそ見えてくることがあるんですよね。それを早い段階で経験できることと、制限がある枚数の中で企画を魅力的に伝えるというのは、トレーニングとしてとても良いんですよね。
―やはりこれまで積み重ねてきたことが、現在の考え方や自分の企画、制作スタイルに影響していますか?
していると思います。最近の企画の考え方も、受賞した当時となんとなく近いところがありますし、提案書の作り方もやっぱりいろんな受賞作を見て、自分もマネしたり、いろいろ試行錯誤していました。プレゼンの基礎はあの頃できたのかもしれません。企画も提案もやっていることは昔も今も一緒だなと思うことは結構あります。
―関谷さんにとって広告賞とは何でしょうか。
広告賞は若手の登竜門だと思っていて、受賞をきっかけにクライアントから仕事をいただくとか、仕事のきっかけにする入口だと思っています。それと同時にやはりトレーニングですね。受賞しなくても意味があるという。それは今だから思うことで、後輩にもよく言っています。受賞しなくても別に落ち込むことはないと。
―数ある広告賞の中でもMetro Ad Creative Awardにはどんなイメージがありますか?
ほかのコンペと違って、特にプランニング部門でいうと、交通広告を使うという条件が決まっているんですよね。制限があるからこそ、実際の仕事で考えるときと近い。自由に考えてくださいではなく、こういう条件でやりましょうという。その制限を突破しないと企画が生まれないので。その分、実現性の高い企画が考えられる気がします。他のコンペの場合、企画は良いけど、実現するのは難しいというものが多かったりするんですが、Metro Ad Creative Awardの方は、より実現性が高い企画が考えられると思います。
―ずっと第一線で活躍されている関谷さんの、今後のビジョンを教えていただけますか?
いろいろやらせてもらっていて、その一個一個の精度を高めていきたいというのがまずあります。それと広告を作ることも、いろんなビジネスも何かしら環境負荷を与えています。今年兼務になった地球中心デザイン研究所(略称・ECD)という会社は、そうした環境負荷を少なくしていくこと、むしろポジティブに、面白いこと、かっこいいこと、いいなと思えることとサスティナビリティを両立していくクリエイティブを考えていこうという会社なんです。言うは易しでまだ試行錯誤中ですが、ボス曰く「制限があるからこそ、いいクリエイティブが生まれるし、それを突破できてこそのクリエイターだから、挑戦しよう」と。僕もそれを実現したいなと思っているところです。
企画の新しさや面白さはもちろん、わかりやすさも大事。
関谷氏は昨年に続き、2024年度も当アワードのプランニング部門で審査員を担当する。
―審査員として、当アワードに応募を検討している人にメッセージをお願いできますか?
まずはチャレンジすること自体、トレーニングとして意義があるから、挑戦してみた方がいいということ。受賞するかどうかはあまり気にしなくていいと思います。でもみなさん、受賞したいという思いはあるはずだから、そのためには研究すること。アイディアも研究すべきだし、企画書をどう伝えるか、伝え方も研究していくべきだと思います。
―どんな作品を期待していますか?
自分が思いつかない企画と出会って、すごい人がいるなと勉強させてもらいたいというのが一番ですかね。企画として面白い、その手があったか、新しい、効果ありそうというのはもちろんですが、わかりやすさも大事ですね。昨年、審査員をやらせていただいて、他の審査員の方もみなさん同じだと思いますが、大量の企画書を丁寧に読み込んでいくのはやっぱりけっこう大変で(笑)。ですが3周は読んで審査していますし、 わかりやすいというだけで受賞の確立は伸びると思います。わかりやすくまとめるということは、その後、広告を作る上で生かされるはずですし。生活者に対しても、クライアントに対してもわかりやすいことは大事ですからね。それもトレーニングとしてすごく必要なことだと思います。
第8回目となる「Metro Ad Creative Award 2024」では富士薬品、TBSホールディングス、ロッテ、山芳製菓、オールアバウトなどの企業がデザインやアイディアを募集中だ。関谷氏が何度も口にしていた“トレーニング”としても、そして自分自身への箔付けとしても意義がある当アワードにチャレンジして、関谷氏のように第一線で活躍する日をぜひ目指してほしい。